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濡れた視線(改定版)
第6章 蛍の求愛
マンションの南側、潤子の屋敷とは対極に位置する公園は国道を挟んで僅か数分の距離『井之頭恩賜公園で花火大会か…』

フレンチラコのポロとアンクルパンツ、そして毎年買い足してしまうnewbala〇〇〇のスニーカーを合わせ、軽やかな足取りで歩く公園のほとり。

賑やかな子供達の歓声を耳に、恋人たちで賑わう溜池のスワンボートを横目に進むと、パントマイムを繰り広げる若者達の隣で、勇矢の気を惹く艶やかな墨画が眼に留まっていた…。

『これ、君が描いたの?』 『はい!私の作品です。お部屋にいかがですか?』

唐突な勇矢の質問に、武〇美の女子大生だと名乗り、19歳の屈託のない笑顔に濡れたように潤んだ眼差しを手向け『ここでのフリマは今日1日限りで、これ良かったら…』と差し出された名刺を受け取ると、駅前のレンタルギャラリー迄の略図とともに、8月末までの常設で個展を開いていると言う。

簡易なキャンプシートに並べられた艶やかな女性の群像…。しなやかな曲線を描く半身に横顔を覗かせ、悩ましく描かれた釣り鐘型の熟れた乳房の描写。その陰影は強制的に補正されたフィクションの造形では無く、ありのままの女の色香が適格に表現され、勇矢の眼には潤子が魅せる艶やかな姿態と重なって見えていた。

『君、専攻は違うけど僕の後輩だよ。これ、凄く旨く描かれていると思う…』

『本当ですか?私からしてもお気に入りの作品なので凄く嬉しいです!たった今も、若い男の子達にお姉さんエッチだね、何てからかわれたばかりで…。それなら10,000円と云いたい処、お兄さんには特別に7,000円にしちゃうけど?』

『君が付けた10,000円で買うよ、その代わり額装して欲しいんだ。勿論今日じゃなくて構わない、7月中にギャラリーの方にもお邪魔するから、その時に受け取れれば…』

『それ位なら喜んでお引き受けします。でもお兄さんお名前は…』

ごめん申し遅れたね、僕は船本と言います。ウォレットから抜いた10,000円札と名刺を差し出す勇矢に、実は女性像のモデルは母親だという彼女…。

『綺麗なお母さんなんだね、何歳なの?』 『母は46歳です、綺麗かどうかは…』
潤子と同じ年齢と知り、言葉を見失う勇矢。夏季セミナーの受講で、ギャラリーに立てない時は母親が代りに在廊すると言い、勇矢の事も解る様にしておくと言う。
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