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濡れた視線(改定版)
第6章 蛍の求愛
『ごめんなさい勇矢さん、今夜は蒸し暑さが残るので、1時間程前に浴槽の温度を少し変えてみたの、今試しに入ったら38℃で丁度良い感じ、私は既に頂いたので、どうします?先にお風呂にしますか?それとも…』

18:00からの花火大会にも早く、女房然とした潤子の優しい口調にそそられ、勧められるまま浴室へと向かった勇矢。

脱衣場の引き戸を開けた途端、ほんのり漂うハーブミントの匂い。

そして、ふと見る洗面台に並べられたおびただしい数のアメニティ…。

紳士用の髭剃りにシェービングフォ―ム。そしてアフターシェーブローションからヘアトニックまで、ピンク色の歯ブラシだけだったスタンドには、クリアブルーの真新しい歯ブラシも加わり、つい先日から一新した様相に驚きを隠せないでいた勇矢。

(すべて俺の為に…?)これも全て勇矢に対する潤子なりのおもてなしであり、確信犯的愛情表現に変わりはなかった。

浴槽に深々と浸かりながら、既に湯水の中で怒張した意思表示をみせると、勇矢は麻袋に入れられた薄荷(ハッカ)の葉を、弓なりに揺らぐぺ〇スに撫で擦るように充てがわせていた。

おおよそ40分弱。全身を汲まなく洗い清め、洗面台に備えられたアメニティで身支度を整え直し、小ざっぱりした表情を浮かべながら寝室の蚊帳を潜り入ると、蚊帳越しに望む6面の簀戸が半分開けられ、花火を観覧するにも充分な視界が確保されていた…。

『勇矢さん、お風呂の加減どうでした?』ホテルワゴンを押す潤子が応接室の衝立を掻い潜ると、品を作りながら、えくぼの滲む満面の笑顔を手向けていた。

『潤子さんが言うように、湯上りの汗も引き摺らないし、最高のお風呂でした』

『良かったぁ、少しでも疲れがとれたら、と思って。さ、始めましょう…』
クーラーバックに冷やされた四合瓶は潤子自身が好きな純米酒と言い、漆塗りに螺鈿細工が嵌め込まれたテーブルに酒の肴が並べられると、辺りには夕闇の帳が降り始め、裏庭から望む夜空に、青く輝く青月がくっきりと浮かびあがっていた。

『あっ、あがった!ねぇ勇矢さん観えた?』定刻の18:00、アイスブレークの初発が打ち上げられ、一瞬にして夜空に大輪の花が咲いた。

『うゎぁ、こんなに間近に観れるなんて、感動以外の何物でも無いね…』
互いに顔を見合わせると、あたかも少年少女のような2人だった…。
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