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濡れた視線(改定版)
第7章 墨画の女
お互いを貪り合う濃密な時を経て、仄暗いままの寝室で日曜の朝を迎えた潤子。

庭先と隔てた簀戸の簾(すだれ)越し、射し込み始めた朝の陽射しが仰向けに伏した潤子を照らし出すと、剥き出しの乳房に肌掛けをかけ、直穿きにしたアスレチックショーツに、すらりと伸びる太腿を覗かせれば、未だ昨日の残影が遺る躰の芯には、漲る勇矢の証が模られたかのように遺されていた。

(やだ、私って…)その柔らかなパイル生地のショーツ越し、潜らせた右手を女陰へと滑らせると、更にその奥へと潜らせた指の先には、粘度の伴う淫らなぬめりが絡まり、10数年振りにもたらされた性の悦びは、潤子の躰をより鋭敏なものへと昇華させ、同じ敷地内で時を同じくする勇矢も、収縮を繰り返す名器にこの上ない快感を覚え、目覚めたベッドの上で、潤子がもたらしてくれた悦びに慕っていた。

(いよいよ明日から仕事か…)10:00を示すベッドの時計を尻目に、気怠さを遺す腰を奮い建てるように起き上がると、ブランチを兼ねたバジルソースのパスタを手早く作り、枯渇した精の補給にと、勇矢は潤子が手造りした大蒜のたまり漬けを添えると、杉浦綾子の名刺を垣間見ながら、一気に平らげていた。

そして枯渇した精も補給し終えた昼下がり、勇矢は名刺に裏書された地図を頼りに、購入した墨画を受け取りに駅前に出向いていた。 (ここかぁ…)「レンタルギャラリー響子」と、記されたビルの袖看板を見つけ、額に滲む汗を拭いながら、そっと店の扉を潜り入ると、店内の壁面を飾る墨画には、どれも妖艶な大人が見せる女性の姿態が描かれ、勇矢は足音を偲ばすように、その1枚1枚を鑑賞していた。と、その時『どうぞごゆっくり…』と、背中越しに浴びる声に振り向くと、黒い麻のワンピースに身を包み、奥ゆかしい笑顔を滲ませる女性が現れていた。

『こんにちわ、ひょっとしたら綾子さんのお母様ですか?船本と申しますが…』

『えぇ、娘から伺っております、綾子の母で杉浦響子と申します。娘の作品を購入して頂きありがとうございます。綾子もとても喜んでおりました…。只今持ってまいりますので、そのままでお待ち下さいね』と、休憩室と思しきカーテンを潜るその後ろ姿には、引き締まった足首に続く筋肉質な脹脛を覗かせ、深く切り込まれたワンピースのスリット越しに、その雪のような肌を艶めかしく協調していた。
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