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濡れた視線(改定版)
第7章 墨画の女
『おまたせしました、こんな感じで額装してみたんですが、どうでしょうか?』と、艶消しのシルバーグレーに縁取られた額装は文句無しの様相をみせ、快諾した勇矢を画廊内に据えた応接テーブルへと手招くと、せっかくですからと、冷えたアイス珈琲が運ばれていた。

『お暑い中、足を運んでくださりありがとうございました。船本さんも絵画はお好きですか?』と、青白い鎖骨をノースリーブの襟ぐりに覗かせると、そこはかとなく漂う色香は、潤子とはまた違う艶めかしさを放っていた。

『趣味程度でお恥ずかしいですが、綾子さんの揺れるような筆使いがなんとも気に入って、思わず公園で声をかけさせていただいたんです。とても上手に表現できてると思いますし、なんでもモデルはお母様ともお聞きしたんですが?』

『まぁ、あの娘ったらそんな事まで…。もう本当にお恥ずかしい限りです。さっ、どうぞ冷たいうちに召し上がって下さいね。申し遅れましたが…』と、テーブルのガラス天板に滑らせるように差し出された名刺を目にし、勇矢は目の前に対面するご婦人が、ギャラリーのオーナーであると、今更ながら気づかされていた。

たわいもない話で談笑し、聞けば潤子と同じ未亡人という事にも驚きつつ、元々は生前ご主人が営んでいた喫茶店を改修し、一人娘の綾子や同じ画学生同士の社交の場も兼ね、レンタルギャラリーとして生まれ変わらせたと言う…。

『今日はどちらからでしょう。お近くですか?』

『僕は井之頭恩賜公園の畔近くなので、ここまで歩いても15分程度ですから…まだ越して来て間がないんですけど、緑も多く暮らしやすい街並みですよね…』

『そうですか、公園の畔と言えばマンションにお住まいですか?綾子からは同じ大学の大先輩だから、丁重にご挨拶するよう再三に渡って言われたんですよ』

『えぇ、専攻は建築なので綾子さんとは異なりますが、武〇美のOBです。目立っているのでご存知かも知れませんが、マンションは煉瓦貼りのマンションで…』

『えっ!大家さん箕田さんですよね?そうそう、先月このギャラリーで諏訪酒店のご主人が日本酒の試飲会を兼ねた展示即売でご利用頂いたんですが、その時にホステスとして同伴されていらっしゃって、とてもお綺麗な方でした…』

勇也はあまりの偶然に驚きつつも、杉浦響子から放たれるエロスを敏感に嗅ぎ取っていた。
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