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濡れた視線(改定版)
第2章 魔性が潜む屋敷
応接室に通され、既に30分は経過しようとしていた…。
6メートル近い天井高に合わせ、特注で造作されたであろう巨大な窓枠や建具も手伝い、居室内をとおり抜ける風は思った以上に心地よく、縁側の風鈴に小気味良い音色を奏でさせると、どこからか漂って来る甘辛い匂いが、勇矢の鼻腔を擽っていた。

『お待たせしてごめんなさい、せっかくなので…』手作りだと云うおぼろ豆腐が笊籠にもられ、作り置きの鯛の煮つけに冷えた瓶ビールがテーブルに並べられると、恥じらいながら微笑む横顔にえくぼを滲ませた潤子。

『こちらこそ、お気を遣わせてしまい恐縮です。これはお近づきの印に…』と、勇矢は風呂敷から桐箱に入れた四合瓶の詰め合わせを取り出すと、そっとテーブルの片隅へと据えた。

『ご丁寧にありがとうございます。さ、遠慮なさらずに召し上がって下さい…』

『ありがとうございます、では遠慮なく…』肩掛けしたカーデガンを無作為に外し、グラスを手にした勇矢にビールを注ぐ潤子。その指先には口紅に合わせたオレンジのネイルが施され、青白い毛細血管の滲む細長い指先に、更に華を添えて見せていた。

アルコールと云う媚薬が互いの心を解したのか、尽きない会話は立ち入った事にまで及び、勇也が生業とする仕事の事、そして真剣に結婚を考えた異性がいながら、叶わなかった過去の恋話…。潤子は亡くなったご主人との想い出を語り、子供も授かれぬまま18年間の夫婦生活を終え、41歳で未亡人となり、先月には夫の5周忌を終えたという…。

やがて2本目のビールの栓が潤子の手元で抜かれると『もう、一人では何なので…』と、勇矢に促され、快く受けた潤子が微笑を見せると、一旦席を外しキッチンへと姿を消した。

(無理強いさせたかな?)と、勇矢が想う間も無く、潤子は自分用のグラスの他に茗荷と胡瓜の和え物を携え、廊下から歩み寄って来るその姿態に零れる笑顔を見せながら、たおやかに揺らぐノーブラの乳房をノースリーブ越しに象らせ、その枝垂(シダ)れた釣鐘型の先端に突起した乳首の陰影が滲むと、見据える勇矢の視線を否が応でも釘付けにしていた。
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