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また桜は散り過ぎて
第13章 クリスマスの夜に
 コーヒーと共に運ばれてきたケーキのお皿は、
普段のケーキのお皿より二回りくらい大きく、
たぶんサンドウィッチのお皿だと思う。
そこにはチョコペンとフルーツを使ってのメッセージが彩としてケーキを盛り立てている。
 メリークリスマス。そこまではみな同じはず。
だけど、多分これは私のお皿にだけほどこされたデコレーション。
そう、名前が書いてあるのだ。メリークリスマス、町田さん、と。
下の名前ではなく町田さんと書かれているところが小西さんらしくていい。
「すごくかわいい!写真とっておこう!」
スマホを構えると小西さんが、ケーキと一緒に撮りましょうかと申し出てくれた。
「いいですか?じゃあ・・」
お願いしようとスマホを差し出すと、今度は隣の席に座っていた、
たまに見かける常連のおじさんが声をかけてくれた。
「せっかくだからマスターと一緒に、俺が撮ってあげるから」
そう言って手を差し出した。
小西さんと顔を見合わせてから、私はおじさんにお願いした。
「ありがとうございます、お願いします」
ケーキのお皿を挟んだぎこちない距離なのは仕方ないとして、
せめて笑顔ぐらいはと目いっぱいの微笑みを作る私だったが、
小西さんは緊張の表情だったらしく、
「マスター、もっと笑って!せっかく美人と一緒に写るんだからさぁ」
と場を和ませて、小西さんの笑顔を引き出してくれた。
 撮ってもらった写真を見ると、私の方がかえってわざとらしい感じがして
思わず吹き出してしまった。
「ほら、私の方が顔がわざとらしいでしょ?小西さんの方が自然でいい感じです」
写真を見せると照れていた。
「さあ、どうぞごゆっくり」
カウンターに戻っていく彼の足取りがなんだか軽そうに見えた。


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