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また桜は散り過ぎて
第13章 クリスマスの夜に
 目じりを少し湿らせながらしみじみと店主の顔を見つめる。
やっぱり好きだな、この人が・・
「あらやだ!」
急に張り上げた私の声に小西さんが驚いた。
「どうしたんですか」
「もう閉店しているんですよね、ごめんなさい、いつまでも居座っていて。
 これから支度とか忙しいんですよね」
そう、6時閉店だと確認したはずだが自分はいつまでも座り込んでいて。
慌てて立ち上がろうとしたのだが、ふと、今この瞬間を、
二人きりの時間をちょっとだけ使わせてもらおうと動きを止めた。
 自分の気持ちを伝えよう・・言いたい事を言ってみよう、と。
「・・小西さんは・・弟さんに会いたいですか?」
「え?」
小西さんが驚くのも無理はない。そして私自身も、これを先に言うのかと驚いている。
「あ、いえ・・先日久しぶりに姉から電話があって。
 年末年始は実家に帰るかって話をしたんです。それで急に思い出しちゃって」
「そうですか・・実家はどちらなんですか?」
「湯河原なんです」
家には温泉を引いているというと、羨ましいですねと声を弾ませていた。
「子供の頃は喧嘩ばっかりしてたけど、姉が嫁いでからのほうが仲良くなったかな」
黙って微笑んだかと思うと寂しそうにうつむいた小西さん。
会えたら会いたいですね、弟に、と独り言のように呟いた。
「もう一つ聞いてもいいですか?」


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