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また桜は散り過ぎて
第4章 喫茶・桜葉
一時間ほどゆっくりと過ごして、席を立った。
会計の時、私は勇気を振り絞って店主に声をかけることにした。
「ケーキ、とっても美味しかったです」
何か気の利いたことを喋ろうと気持ちを整えたけれど、いざとなったらこんなありふれた、
それもたった一言しか出てこなかった。
「ありがとうございます。気に入っていただけて嬉しいです」
店主の小西さんもまた、当たり障りのない返答を口にした。
よく見るとその口元は、もっと言葉をこぼしたそうだった。
うっすらとした沈黙。でもプレッシャーには感じなかった。
それは相手も同じようで、お釣りをトレーに置きながらゆったりとした笑みで頭を下げた。
「またのお越しをお待ちしてます。これ、よかったら」
お店の名刺と再びの割引券を、こちらは手渡ししてくれた。
ゆっくりとした動作でドアを開ける。
かわいらしい鈴の音を頭上で聞きながら振り返ると、
店主の小西さんが穏やかな眼差しで私を見ていた。