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また桜は散り過ぎて
第7章 休日に出会った偶然
「ああ、なんだかとてもいい休日になりました」
持参していた水筒のお茶を飲みながら、大きく息をついて空を眺めている
小西さんの横顔は、店で見せる顔とはやっぱり違う。
リラックスしている感がにじみ出ている。
「お客さん相手の仕事って大変そうです。いろんな人とお話ししたり気を使ったり。
私には出来ないなぁ」
喫茶店のマスターやバーのマスター。
こちらはいい話し相手になってもらって好き勝手に喋りまくるけど、
聞いてくれる方は100パーセント私と同じテンションではないわけで、
そういう気持ちの切り替えをその都度しなきゃならないのだから、客商売は大変だ。
「まあ、いつも聞き役にまわってますからね。でも考え方によっては
聞き役のほうが楽な時もあります。自分の事はあんまり話さなくてすみますからね」
「聞かれなくてよかったってことでも、あるんですか?」
私の、何気なく失礼な問いかけに、小西さんの瞳ははるか彼方に焦点を向けた。
どこにあるのかわからない何かを、見ているような。
「実はね、今朝墓参りに行ってきたんですよ、親父の。3年前に亡くなって。
墓がわりと近いんで、それでこの町に住んで店を開くことにしたんです」
「そうだったんですか」
「今日は聞き役じゃなく話し手になろうかな」
小西さんはもう一度空を眺めてから、ゆっくりとした口調で話し出した。