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第9章 さくらバーで知った、今と過去

「ねえねえ、何の話してたの？男と女の会話かな？
　コイツは口説き上手の嘘つきだからね、気をつけないとパクリと食われちゃうよ」
「やあね、オジサンはすぐそうやっていやらしい事考えるんだから。
　違いますよ、マスターの家族のこととか聞いてみただけ。天涯孤独なんですって」
私の返答を背中で聞いている省吾さんは、ひたすらモヒートを作っている。
「天涯孤独？ああ、おふくろさんが亡くなったって言ってたもんな」
真面目な内容に話が及ぶとさすがに柴崎さんも落ち着いた低い声になった。
「あれ、だけどお兄さんがいるって言ってなかったっけ？
　親が離婚した時に別れ別れになった兄貴がいるって」
聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
省吾さんと小西さんの顔が瞼の裏で交錯した。