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また桜は散り過ぎて
第10章 喫茶・桜葉で知った、過去と事実
ケーキを食べ終え、すぐに飲み干してしまわないように
ちびちびとコーヒーに口をつけて間を持たしていると、
洗い物を終えた小西さんもコーヒーカップを片手にやって来て、隣のテーブル席に座った。
「今日も一日無事に仕事を終わらせられます。町田さんもお疲れさまでした」
「ほんと、一日、一週間、無事に終わらせられるとホッとしますね。
あっという間に時間が過ぎて日が過ぎて、
ただ歳をとるためだけの繰り返しのようだけど、
何事もなく一日の終わりを迎えられるって、ありがたい事ですよね」
こういう会話は省吾さんとはあまりしない。と、そんなことを思い浮かべるのはやはり、
小西さんと省吾さんを比べて見てしまっているからなのだ。いい事とは、思えないが。
少しの間何も話さずコーヒーを飲んでいた小西さんが、
ぽつりと落ちた雨粒のように急に口を開いた。
「ただの良い人、それしか取り柄が無くてもいいものでしょうかね・・」
「えっ?」
「さっき、私のことを良い人過ぎると言ってくださいました。
良い人って判断してもらえたことはもちろんうれしい事です。
でも、それだけでも男としてはいいものなんですかね」