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また桜は散り過ぎて
第11章 喫茶店からのクリスマスの誘い
「いらっしゃい、久しぶりですね」
目じりを下げる小西さんの挨拶に、思わず笑いそうになってしまった。
この人も言うのね、省吾さんとおんなじ、久しぶりって。
「はい、久しぶりです。すみません、なかなかこられなくて」
「ああ、そんな、ヘンな意味じゃあないんですよ」
自分が嫌味を言ってしまったのではないかと気にした様子の小西さんは、
申し訳なさそうに頭を二度三度と下げていた。
「あ、今日はカウンターしか空いていないんですけどいいですか?」
小西さんの顔ばかり見ていて気付かなかったが、店内のテーブル席は満席だった。
土曜の午後、ティータイムにちょうどいい時間だからか、
コーヒーやケーキを楽しむグループ客でにぎわっている。私のいつもの席もうまっている。
おかげで初めて、カウンター席に座ることができる。
普段だって空いてれば座ってもいいのだが、
小西さんとの距離が近すぎていつも遠慮していたのだ。
「ここに座るのは初めてです。なんだか緊張しちゃう、
けどコーヒーを淹れるところを間近で見られるんですね」
座って見上げると、サイフォンの中を行き来するかぐわしい香りの液体に
思わず見とれてしまう。
そのさらに奥には、柔らかな眼差しでサイフォンを見つめる小西さんの顔が見える。
喫茶店での特等席はやはりカウンターであろう。
「そうそう、ご注文まだでしたね」
「はい、ケーキセットで、ケーキはガトーショコラでお願いします」
「じゃあコーヒーは」
とそこまで言うと、小西さんの声が急に小さくなった。
「モカにしましょう。町田さんのために特別に」
店内のにぎやかさに紛らせて、私のための特別なコーヒーだとほほ笑む小西さん。
その気持ちの原点を、知りたい気持ちが大きくなった。
彼は私のことをどう思っているのか。