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また桜は散り過ぎて
第12章 喜びは戸惑いへ
ロビーの奥にひろがるダイニングカフェ。
窓の外には緑が見えるはずだが、夜のとばりで黒く見える。
思ったよりもにぎやかで、初めて省吾さんと二人きりだという緊張感は、
徐々に薄くなっていった。
食事を楽しんでいる間は、お店の常連さんたちのおもしろい話がほとんどで、
かえってその方が気が楽でよかった。
「客商売してるとさ、いろんな人間に出会えておもしろいし、勉強にもなるね。
人との付き合いって大切だなとかさ」
「へぇ、省吾さんもけっこう真面目に考えてるんだね。そうは見えなかったけど」
「おっとぉ、けっこう厳しい事言ってくれるねぇ。
ま、見た目がこんなんだからね、しょうがないか」
「そんなことない。でも、自分のこと、よく理解してるんだね。それってすごいと思う」
そうかい?と得意そうに胸を張る姿をクスクスと笑っていると、
急に真面目な顔で話し出した。
「子供の頃の親の離婚で、お袋が俺を選んだと思っていたんだけど、
実は親父が兄貴を選んだってことを大人になってから聞かされてね。
生真面目な兄貴なら帰りの遅い親父の事を辛抱強く待っていられるだろうって。
俺は一人は無理だって。まあ、歳も6歳離れてるからね。
それを聞いたからってわけじゃないけど、俺は選ばれる人間になりたい、なろうって、
なれるよう頑張ろうって。だから、晴海ちゃんが他の男に気を取られてるみたいだけど
俺を選んでくれるはずだ。そう思ってる」