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また桜は散り過ぎて
第12章 喜びは戸惑いへ
 私の、言葉を失っている様子を見て、
「場所、変えようか」
そう言って省吾さんが立ち上がった。
私もゆっくりと立ち上がり、考えることなく省吾さんの後をついていく。
 会計を済ませた省吾さんが、ポケットの中から何かを取り出した。ルームキーだった。
「部屋でゆっくり飲みなおそう」
 エレベーターに向かって歩き出す省吾さんの後を、軽くも重くもない足取りで、
まるで夢遊病者のように歩いていく。もはや周りが見えなくなっている。
ついていっていいの?ホテルの部屋に入るってことは、その先に待っている事って、
想像できるでしょ?・・・

 その時、私の腿の辺りに何かがどさっと当たった。
直後にわぁっという子供の泣き声が聞こえた。
小さな子供が、多分前を見ずに走って来たのだろう。
私の足に衝突して後ろにひっくり返ったのだ。
「まあ!ボク、大丈夫?」
私が抱き起していると、前を行く省吾さんがすぐに戻って来て
私と一緒に子供に手を添えた。
そこに母親が名前を呼びながら小走りでやって来た。


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