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恋とエロス
第2章 泣くほど恋しいひと
まわりの後押しですっかりその気になっている道成に「実は好きでもなんでもありません」なんて、とてもじゃないけど言えなかった。
このサークルをやめたくはなかったし、道成の人柄はすこぶる好ましく、傷つけたくないなと思ってもいた。
それに、私が入学した嘉永義塾大学はいわゆる私立名門というやつで、幼稚園や小学校からずっと附属に通っていた内部生が多く、私のような地方出身の外部生はなじむのが大変な面もあった。
道成は祖父も両親も卒業生という筋金入りの嘉永育ちで、もちろん幼稚園からの内部生である。だから当然のように血筋も育ちも申し分なく、彼と付き合うことで私が得られるメリットはとてつもなく大きい。
逆に、彼の好意を無下にした場合、今後の大学生活がどんなものになるか……火を見るより明らかだろう。
まあ、そんな打算と保身、不純な要素を山ほど抱えながら、私は誤解を解くことをあきらめ、道成の好意を受け入れることにしたのだ。
「出会って間もないのにこんなこと言われても困るかもしれないけど……」
去年、梅雨入りしてすぐの頃、傘をさして並んで歩きながら、道成はいきなり切り出した。
「志倉万結さん」
立ち止まり、緊張の面持ちで私の名を口にした彼は、大きな瞳に私の姿をしっかり映して言った。
「あなたが好きです。どうか僕と付き合ってください」
道成の人生初の告白は、そんな感じでとても堅苦しく、真剣なものだった。
「嬉しいです。私でよかったら、よろしくお願いします」
笑顔ですらすら答えられたのは、予期していたからであり、覚悟を決めていたからでもある。
そして、きっと道成は奥手だろうから、深い関係になる前に、少しずつ彼の気持ちを冷まして遠ざかってしまえばいいと思っていた。
それが道成に対してついた第一の嘘。