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恋とエロス
第3章 愛でも恋でもない関係
「お待ちしておりました」
改札口を出ると、二人の男が近寄って来た。
一人は祖父の秘書の谷田浩司(たにたこうじ)、もう一人は私の次兄である志倉悠斗(しくらゆうと)だった。
「三条様、こんな田舎まで足をお運び下さってありがとうございます」
二人は私の方には目もくれず、匡に頭を下げる。緊張した面持ちが、なんだか滑稽に見えた。
「万結、彼らは?」
ふり向いた匡の顔から、いつものふざけた表情は消えていた。外交が必要な時のまじめで穏やかそうな、それでいて威厳と誇りを感じさせる態度を取っていて、さっきまで新幹線の車内で淫靡な遊びにふけっていた男にはとても見えない。
「こちらが兄の悠斗、そちらは祖父の秘書で谷田さん」
私も楚々とした控えめな雰囲気を装う。
「も、申し遅れました。志倉悠斗と申します。初めまして!」
この春、地元の国立大学を卒業して県庁職員となった悠斗は、同じような教育を受けて育った長兄ほどには出来が良くない。気が利かないのは、社会経験が浅いせいでもあるけれど、もともとそういう性格なのだ。
「谷田でございます。志倉市長の秘書を務めております」
悠斗より先に挨拶する訳にもいかず待っていた谷田は、前のめりになりそうな勢いで名刺を差し出した。
恥ずかしい。
いかにも田舎の政治家の身内らしい垢抜けないふるまいに、思わず顔が赤くなる。
「三条匡です。この度はご招待ありがとうございます」
優雅に微笑んで、匡は名刺を受け取ったが、視線を落として見ることなくそのまま胸ポケットにしまった。