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恋とエロス
第3章 愛でも恋でもない関係
 谷田が黒いリムジンのドアを開ける。今夜の彼の役目は運転手のようだ。

 匡は優雅な物腰で乗り込み、シートに深々と腰かけた。私も悠斗にうながされて匡の隣に座る。

「お疲れでしょうから、今夜はホテルにご案内いたします。どうぞごゆっくりお休み下さい。明日、昼前にお迎えに上がりますので、我が家にお越しいただければ……狭いところですが、ご滞在中は精一杯おもてなしさせていただきます」

 悠斗が必死に使い慣れない言葉をつむいでいる。ふきだしてしまいそうで思わず下を向く。車内が暗くてよかった。

「ありがとうございます。遠慮なくお世話になりましょう」

「H市は初めてですか?」

「ええ、そうですね。なかなか縁がなくて」

 匡は微笑み、私の方を見た。

「大学で万結さんと知り合えたのが、初めての縁になりました」

「恐れ入ります。愚妹がご迷惑などおかけしていないか心配です」

 愚妹なんてずいぶん古風な言葉を使うものだ。悠斗の場合、本当にそう思っていそうで笑ってしまう。地方の国立大に入るのと、嘉永義塾に入るのとでは、どっちが大変か考えたこともなさそうだ。

「ホテルに泊まるのは私だけですか?」

 シックな灯りに照らされた、市内で一番大きなホテルが見えてきた時、匡がふと質問した。

「え? はい、そのつもりですが……」

「初めての旅先で一人寝は、ちょっと寂しいですね」

 何を言い出すのかと、あっけに取られて彼を見ると、にこにこと悠斗に微笑みかけていた。



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