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恋とエロス
第2章 泣くほど恋しいひと
「道成(みちなり)先輩」
最終列車が発車する前の東京駅。
八月半ばだというのに、新幹線ホームは人影もまばらで車内はわりと空いていた。昼間とは違い、家族連れはほぼ見かけなくて、たいていが一人客である。
「そろそろ降りないと、発車しちゃうよ?」
ドア付近のデッキで、豊川道成は私の手を握って悲しそうな顔をしていた。
「……来月まで万結と会えないなんて地獄だ」
「じゃあ、このまま一緒に来る?」
「行きたい」
即答した道成に、思わず苦笑してしまう。
「だめだよ。うちの家族がびっくりしちゃうでしょ」
彼は恨めしそうな目で私を見て、唇を噛む。
「そんな顔しないで」
私は背の高い道成を見上げて微笑みかけた。
「実家のパソコンから、ちゃんと連絡するから」
「ネットじゃ万結に触れないし、キスとかできないじゃん」
「でも、顔は見れるでしょう?」
道成は大げさにため息をついて、私の額にそっとキスを落とした。
「我慢するけどさ……耐えられるかな」
その時、発車を知らせるアナウンスが流れはじめた。
道成は手をやっと離したが、名残惜しそうに私の顔を見つめて動かなかった。
「元気でね」
笑顔で手をふると、道成はしぶしぶドアに向かいかけ、それから急いで戻って私を抱き寄せ、慌ただしく唇を重ねた。
「着いたら連絡しろよな」
「はい、先輩」
ドアが閉まる寸前で、彼は外へ飛び出た。
発車を知らせる音が鳴る。