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恋とエロス
第2章 泣くほど恋しいひと
 ドアの窓越しに手をふり合い、道成は動き出した新幹線を数歩追いかけたところで視界から消えた。

「一ヶ月かあ……」

 付き合いはじめて一年以上経っても、全力で私を好きだとアピールしてくる恋人。鬱陶しい時もあるけど、多くの時は可愛くて仕方ないと思ってしまう。

 にじんでくる涙を指先でぬぐう。
 来月まで会えないことが辛いのは、私だって一緒だ。余裕があるようなそぶりをしていても、心の中ではしょんぼりしている。

 素直に「寂しい」と言えないのは、私の性格のせいでもあるけれど、態度に表してしまったら二人で悲嘆にくれて泣きながら抱き合うなどという無様なことになってしまいそうで……たかが夏休みの帰省で、そんな大げさでみっともない別れのシーンなんか演出したくない。


 豊川道成と付き合うようになったきっかけは、ちょっとした誤解によるものだ。

 去年の春、入学したばかりの大学で音楽サークルの見学に行った時、とても素敵な女子の先輩を見かけた。

 腰まである超ロングの黒髪が印象的で、顔を見ればキリッと引き締まった涼し気な美形だった。スリムな長身にタイトな黒いパンツと真っ白なシャツがよく似合い、ヘッドホンを耳に当てながら音楽機材を操作する姿が、無造作なのに品格が漂っていて、なんともかっこよく見えた。

 後に知ったのだが、彼女は松丸梨子(まつまるりこ)といって、日本を代表する大企業の、創業者一族に生まれた本物のお嬢様である。

 私は思わず、隣で一緒に見学していた子に「あの人かっこいいね」と話しかけてしまった。

「え……ああ、そうだね」

 そう返事した子は、石川夕海(いしかわゆうみ)。今はサークル仲間で友達なのだが、早とちりの才能がある。

「背も高いし、たしかにかっこいい先輩だよね」

 まさかその時、夕海が松丸さんの横にいた男子の先輩を見てそう返事したとは、思いもよらなかった。

 それが豊川道成だったのである。
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