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Memory of Night 2
第8章 蛍の思い出
黒い髪に灰色の瞳。闇に浮かび上がるほどに白い肌。綺麗な顔立ちにはまったく似つかわしくない乱暴な言葉が宵の図上で響いた。
「てめー、ちょこまか走りまわるんじゃねえよ、はぐれるだろ! 転んだって知らねーぞ」
「離せよ、蛍捕まえるんだよっ」
宵も負けじと言い返す。どうにか腕を振りほどこうともがいていると、不意に体を持ち上げられた。
そのまま無言で川へと近づき、腰辺りまである柵の向こうに宵の体をぶら下げる。
驚いて、宵は慌てて暴れるのをやめた。
「うるせーな、言うこと聞かねえとこのまま川に捨ててくぞ」
「も、桃華(ももか)さんっ! それはさすがにアウトっ! 桃華さんっ!」
だが、宵より先に大声を上げたのは別の男性だった。
慌てて駆け寄ってきたその人物は宵の体を女性から奪い、そっと地面に下ろした。
目前には、柔らかい猫っ毛と小柄な体躯。その姿にも、懐かしいくらいに見覚えがあった。
「ほら、早く謝んないと本気で怒られちゃうよ、宵。彼女を怒らせたら、僕には助けてあげられないからね」
苦笑いと共に優しい声色で促され、宵はしぶしぶ頷くしかない。この三人の中の力関係は、圧倒的に彼女が上なのだ。
宵が覚えている限り、物心ついた時からずっと。
「……ごめんなさいーー母さん」