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Memory of Night 2
第18章 人魚姫

「明、今助ける!」
そう言って上着を脱ぎ捨て飛び込もうとする大山を宵が怒鳴り付ける。
「おまえまともに泳げねーだろーが! 俺が行く」
だが宵が靴に手をかけた瞬間、晃に肩を掴まれ
た。
「君でも無理だ。ーー離岸流って聞いたことある?」
「りがんりゅう?」
初めて聞く単語に宵が眉を寄せる。
「風が強い時に起こりやすい特殊な潮の流れのこと。ぱっと見はそれほど波が強くなくても、海に入った瞬間いっきに沖まで引っ張られるよ。君でも俺でも無理だ、岸に戻れない」
「ならどうすりゃ……」
「……何か無いか見てくる。ーーいい? 絶対に無茶しちゃダメだよ」
そう言って晃は今歩いてきた方へと全速力で引き返していった。
晃の口調は語気を強めてはないものの、有無を言わさない口調だった。冷静を装ってはいるが、内心かなり焦っているのが言葉の端々からわかる。
また風が強く吹き、高波が浮き輪と明を飲み込む。
「明……!」
大山の悲鳴のような呼び声が、黒い海にこだました。
明はまだどうにか浮き輪にしがみついていた。
だが、冷たい海と波に体を遊ばれ、体力はどんどん削られていくはずだ。
「くそ、なんか方法ねーのかよ……っ」
苛立ちに宵は頭を抱えた。クラスメイトが今にも溺れそうなのに、ただ見ていることしかできないなんて。

