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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

千鶴は孝明の服を引き、口付けた。嫌な胸騒ぎがした。初めて彼女の部屋に来たのに、一番に聞いてくるのがなぜ桃華のことなのだろう。……むかつく。
千鶴の苛立ちを察したのか、孝明はその時はそれ以上、桃華の話はしてこなかった。
だが、それから千鶴の彼氏は頻繁に家に来たがるようになった。土日のみならず平日も、放課後部活の後や部活が無い日も。ちづと一緒にゆっくり過ごせるから、なんて言葉に騙されていた。
家の裏が工場で、桃華はいつもそこにいた。短大を卒業してからは、五人の従業員と共に工場で働いていた。家にくるたび、最初と最後、必ず挨拶に行く。
両親からはもちろん好印象だった。彼氏が家に来るときは、学校から一緒なので安全だ。それも孝明のことを、気に入っている要因の一つだろう。何回か遊びにくるうちに、桃華とも一言二言、言葉を交わすようになっていった。
桃華からすれば妹の彼氏だ。多少の愛想は向けていた。もちろんそこに異性としての意識はなかっただろう。成人している桃華には、妹の同級生である男子中学生はただの子供でしかない。
だが、千鶴は内心不安で仕方なかった。孝明は桃華を意識している。なんとなくそんな気がした。姉の姿を、できることなら視界に入れないでほしかった。

