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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

 千鶴の家に遊びにくるようになってから一ヶ月ほど経った頃。心配していたことが現実になった。
 いつものように家に来て、挨拶しに工場へとまわる。ほんの数十秒ほどなのでいつも千鶴は家の方の玄関で待っていた。毎回彼氏と工場に顔を出すのは、さすがに気恥ずかしかったからだ。
 だがその日はなかなか工場から戻って来なかった。お邪魔しますの挨拶など一分もかからないはずなのに。いてもたってもいられず覗きに行くと、ちょうど就業終わりの桃華を裏手に呼び出すのが見えた。
 とっさに物陰に身を隠し、声を盗み聞いた。
 孝明は桃華に小さな紙を手渡していた。
 桃華はその場で紙を開き、顔色を変える。

「……なんのつもり?」
「いや、その……」

 低い声色に、孝明はびくりと肩を震わせた。
 一瞬言い淀み、すぐに上手い理由を思いついたのか、答える。

「お義姉さんに相談がありまして……。時間がある時に、電話しても……」
「それは千鶴にすることだろう? それに、あたしはあんたの姉じゃない」

 桃華は渡された紙をその場で破った。二回破き、作業着のポケットへと突っ込む。
 そこに書いてあるのが何かは見えなかったが、おそらく電話番号か何かだろう。
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