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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

 結局桃華は夕飯には現れなかった。
 その夜。真夜中だ。名前を呼ばれ、起こされた。
 目を開けると、月明かりのみの薄暗い中に桃華の灰色の瞳があった。
 桃華の部屋は隣だ。パーカーにジーンズ姿で、黒い大きな鞄を肩にかけていた。

「起こしてごめん。家、出てく」
「……え?」
「ここはあたしには窮屈でさ」
「どこに住むの?」
「まだ決めてないけど。決まったら連絡するよ。母さんたちに言っといて。好き勝手やってごめん、て」
「ちゃんと自分で言いなよ」
「……いーよ、引き留められそうだし」

 桃華は千鶴の部屋を見渡し、おもむろにクマのぬいぐるみを手に取った。
 何もない殺風景な桃華の部屋と、可愛く女の子らしさを意識して飾った千鶴の部屋は対象的だった。見た目も、学校での過ごし方も、思い返せば全てが真逆だった。

「あたしには、あんたが少し羨ましかったよ」

 ぬいぐるみをしばらく見つめていた桃華はやがてぽつりと言った。
 桃華は部屋を出るとき、千鶴を振り向き、微かに笑った。

「ーーどこにいたって、千鶴の幸せを願ってるよ」

 何かを返そうとした時にはもう、ドアは閉められていた。
 その日を境に、桃華が家に帰ってくることはなかった。
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