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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

 ローズで働き始めると、千鶴はすぐに客達から可愛がられるようになった。最初は露出の多い格好やお触りに抵抗があったが、みんなしてると思えば怖くはなかった。
 何かあったらすぐに相談して、と亮は言った。千鶴は頷き、その言葉を鵜呑みにした。
 時給は破格だった。普通のバーの倍以上だ。おまけに客からは、チップを貰える。
 東京での暮らしが楽になった。
 亮のことが好きだったが、彼の一番は店だった。初めて部屋に行った。亮は決して拒みはしない代わりに、求めてくれることもなかった。
 今まで執拗に求めてくる男達は、みんな他の女に行ってしまう。嘘ばかりだ。亮にはそれがなかった。だからいっそう安心できた。
 自分を求めてくれなくたって、受け入れてさえくれれば良かったんだとようやく理解できた。
 初めて部屋に行ったのは、いつだったか。まだ寒さの残る春先だった。殺風景な部屋の中で、黒いシャツを脱いだとき、彼の全身に施された刺青が見えた。関わってはいけない人だと、なんとなく気付いてはいた。
 逃げることもできた。部屋から逃げそのまま店を辞めたとしても、亮は追ってはこないだろう。亮自ら言ったのだ。まだ、引き返せると。
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