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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

店にいた客のうちの一人だと直感でわかったが、逆光でよく顔が見えない上、今日に限って客入りも多い。
誰かはわからない。
男の声は低かった。
「亮に伝えとけよ。あんなシケた店なんか閉めて、俺らんとこ戻ってこいって。ーー今さら陽のあたる場所に戻れると思うなよ、一生逃がさねーから」
笑い声。脳の奥で反響し、ぐるぐるとまわっていた。
「……そんなわけだ、必ず伝えろよ。じゃなきゃまた同じように性処理用のおもちゃにするからな」
千鶴を放り男たちは去っていく。
亮の体を覆う美しい和柄の刺青が、千鶴の脳裏に浮かび上がった。その頃の仲間だ、きっと。
千鶴は必死にアパートまで帰り、浴室へと飛び込んだ。初めて死にたいと思った。
夢中で膣の中からゴミみたいな液体をかきだし、何度も何度もシャワーの湯を当てた。あんなクズとの子供ができてしまったら。幸せとはほど遠い、最悪なシナリオ。冗談じゃなかった。あんなやつら、みんな死ねばいい。
泣きながら、喉奥に指を突っ込み吐き出す。飲まされて胃に落ちて言った精液も、気持ちが悪くてたまらなかった。
千鶴は何時間も浴室に座り込み、声をあげて泣いていた。
その日は一睡もできずに震えていた。
だから翌日、携帯に桃華からの着信があったのは、本当に神様の悪戯かってくらいの最悪なタイミングだった。

