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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

朝、唐突に着信が鳴った。知らない番号だった。080で始まる携帯番号だ。
いつもなら、知らない番号は出ない。その日は最悪の気分だったのだ。なぜ出てしまったのかは、今になってもわからなかった。
千鶴は通話マークを押し、耳へと当てた。
「もしもし。あたしが誰かわかる?」
桃華だと、すぐにわかった。懐かしい声に驚く。
住む場所が決まったら連絡すると言っていたくせに、一度もなかった。
とは言っても千鶴には学生の頃は携帯が無かったから、家に伝えるのが嫌だったのなら、仕方がない。
「……うん、元気だよ」
「なんかあった?」
散々泣き散らした自分の声は、酷く掠れていた。机の上に出しっぱなしの鏡を見ると、まるでミイラのような醜い顔があった。体も顔も、自分の何もかもが汚く思えた。
「風邪引いて、治りかけなだけ」
「まだ寒いから、暖かくしろよ」
「うん、ありがとう。……お姉ちゃんも」
一瞬、姉をどういうふうに呼んでいたのか思い出せなかった。一緒に住んでいた頃が、遥か昔のような気がする。いっそ夢だった気すらした。
桃華は実家に電話をし、千鶴が家を出たことと、千鶴の携帯番号を聞いたらしい。

