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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

「あたしも近くにいるんだ。偶然だけど」

 そう言って、姉は住所を教えてくれた。驚いたことに、同じ県だった。
 車で一時間もかからない。
 東北から別々に出てきて、こんなに近くに居るのは、確かに奇跡かもしれない。

「遊び来いって電話?」

 千鶴が問う。

「それもあるけど、一個報告したくてさ」
「報告?」

 なんだろうか。帰るのだろうか、実家に。姉が戻るなら、自分もそうしようかと思った。
 昨夜の悪夢など忘れて、全部無かったことにして、このままーー。
 だが、次の桃華の言葉は、千鶴を谷底へと突き落とした。自力では到底這い上がれないようなどん底へと。

「ーーあたし、結婚したんだ」
「……え?」

 一瞬で血の気が引いていくような錯覚を覚えた。

「お腹に子供もいる。予定日は二ヶ月後。あたしが母親なんて、なれんのかな」

 不安げなニュアンスもあった。それでも桃華の声からは、その何倍も幸福がにじみ出ていた。

「……っ」

 千鶴は声にならず、何度かむせた。また、空っぽの胃から酸っぱい何かが込み上げてくる。

「ごめん、喉辛いのに。お大事に。落ち着いたら会いに行くよ」

 千鶴は首を振った。何度も何度もバネのように首を振り続けた。
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