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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

 通話が切れた瞬間、言葉になって溢れ出た。

「ーーなんでだよ……っ! なんで、桃華が……!」

 野獣みたいだ。まるで吼えているような声だった。どろどろしたものが全部、体の中から塊になって吐瀉物みたいに溢れ出る。
 なんで桃華なんだ。あんだけ男嫌いだったくせに。結婚を、頑なに嫌がっていたくせに。ずっと一人だったくせに。親にすら理解してもらえずに、故郷を離れていったくせに。ーー誰からも愛されなかったくせに。

「なんであたしじゃないんだよ……!」

 手近にあったものを、千鶴はおもいきり投げつけた。鏡が割れた。どうだって良かった。
 なんで自分は今、幸せじゃないんだ。桃華を見て、ああはならないように、必死に繕ってきた。なのにいつも上手くいかない。くそみたいな人生だった。上京したって変わらない。
 女を売り物にして、犯されて、堕ちていくばかりのくそみたいな日々。
 自分が知らない男の精液を浴びて帰ってきた夜、桃華は愛する男の腕の中で新しい命と一緒に眠っていたのか。幸せな日々を過ごしていたの。

「ふざけんな……! ふざけんなよおお……!」

 ずっと心の奥にあった、千鶴の一番汚い歪んだ部分が爆発した瞬間だった。
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