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Memory of Night 2
第40章 罪

 一重(ひとえ)の小さな目がなくなり、目尻には皺がよる。優しくて温かい、邪気の一切ない、それでいて心の底から涌き出るような綺麗な笑顔だった。
 ーー初対面の人間に、こんな顔を向けられる人間がいることが、千鶴にはにわかに信じられなかった。

「神谷さん、声大きいですって。あまり騒ぐと病院から出ていってもらいますよ」
「あ、すす、すみませんっ」

 また怒られている。今度は看護師の口調は少し厳しかった。
 ベビー服を名残惜しげにダンボールの中へと戻し、再びダンボールを抱えようとした時だった。唐突に思い出したように、あ! と叫んだ。

「……というか僕、自己紹介もまだでしたよね……っ。桃華さんと結婚させていただきました、神谷秋広(あきひろ)と申します! よろしくお願いします!」

 ずざーと、再びダンボールが落ち中のベビー服が床に散らばる。
 胸に抱えたままで、勢いよく頭など下げるからだ。

「あ、あああま、また僕は……っ」

 服を拾い、丁寧に埃を払いながら、時折いとおしげに服を見つめる。
 ーーああ、だからか。
 なぜ、あれだけ男嫌いだった姉が生涯のパートナーにこの男を選んだのか、わかってしまったような気がした。
 たった数分接しただけで、秋広の人柄は十二分に伝わってきたのだった。それはもう、眩しいほどに。
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