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Memory of Night 2
第40章 罪
ーー違うのは、日だまりのように柔らかいその表情だけ。
「う……あぶ……ああ」
腕に抱えた赤子が泣き出しそうになり、桃華は慌てて笑うのはやめ、よしよしとあやした。
すぐに声はやみ、すーっと寝息に変わる。
桃華はほっとしたように肩を撫で下ろした。
「……昨日、ママになっちゃった」
「本当に産まれたばっかなんだ」
千鶴はカーテンの一歩手前に立ち尽くしたまま、近付けずにいた。
赤子を抱いた桃華は、まるで聖母のように見えた。遠い場所にいる。そんな気がした。
「桃華さん、これ、千鶴さんから」
「何?」
「……ベビー服と毛布。母さんから」
桃華の顔に、わずかに影が射す。
「そっか。わざわざ届けてくれたんだ。……母さんに、ありがとって伝えといて」
切なげなその表情は、五年前に家を出ていった時の顔と同じだった。本音をわかってもらえずに、いや、わかってもらおうとすることさえ諦めて、何も告げずにそっと家を出ていってしまった姉。
「僕、何か飲み物買ってくるね」
ふいに、秋広が言う。久しぶりの姉妹の再会。二人きりにしてくれようと気を遣っての行動だろう。
「あたし珈琲」
桃華が言う。