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Memory of Night 2
第40章 罪
そう言えば、先ほど秋広がその名を口にしていた気がする。
「女の子?」
「いや、男。こいつ、昨日の夕方産まれたんだ。往生際悪く七時間も腹の中留(とど)まりやがって。もういろいろ考えるの面倒で、夕暮れ時に産まれたから宵」
「……どんだけ適当なの」
千鶴は呆れたようにそう返した。
桃華は笑った。
それから宵のほっぺに指先で触る。いとおしげに見つめたあと、ふいに言った。
「ーー女に産まれたって、煩わしいことばっかでいいことなんてなーんもねーと思ってたけど」
そうして、美しい顔を破顔させた。
「今だけは、女で良かったって思えるよ。ーーこの子を、産めたから」
千鶴は黙って桃華の顔を見つめていた。そうだ、この赤ん坊は、彼女が幸せな証だ。あの秋広という男に、愛されていた証明。すやすやと寝息を立て、あどけなく眠る宵を見る。二人が愛し合った、まさに結晶だった。
千鶴の中に再び、どろどろした気持ちが沸き上がってくる。
母や父に理解しようともしてもらえず、孤独の中にいた桃華はもういない。
いつからそんなふうに、日だまりのような笑顔を浮かべるようになったの。どうやって幸福を手に入れた? 目の前には、千鶴の知らない姉がいる。