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Memory of Night 2
第40章 罪
「っ……」
「千鶴?」
桃華が心配するように、下から顔を覗き込んでくる。
見ないでほしかった。きっと今の桃華と対照的な、般若のような顔をしている。
「お……」
再び口を開きかけるが、どうしてもおめでとうが言えなかった。
それだけは言おうと思っていたのに、何かが真っ黒く塗りつぶされていく。
桃華の顔をまともに見られず、ただ首を振って後ずさる。
「どうかした? まだ風邪、良くならない?」
違う。違う、違う、違う。
千鶴は中も言わず、踵を返した。桃華は千鶴を追おうとしたようだったが、赤ん坊がいるため、すぐには立てなかったらしい。
「千鶴!」
大きな声で呼び止められ、立ち止まる。
「来てくれてありがとう」
何も返せずに、そのまま病室を飛び出した。一目散にエレベーターへと向かう。
やっぱり、来るんじゃなかった。こんなところ。込み上げてくるのは、醜い嫉妬ばかりだ。桃華と、桃華の周りの人間と、桃華の境遇に対しての、ドロドロした嫉妬。
途中、飲み物を何本か抱えた秋広とすれ違ったが、立ち止まなかった。
何もかもが眩しかった。余計に自分の汚い感情が色濃く思えた。
逃げるように千鶴はエレベーターに乗り込み、病院の外へと駆け出した。