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Memory of Night 2
第40章 罪
「腕にも背中にも、びっしり彫ってあったもんな」
宵は亮の体の装飾を思い出してでもいるように、そう呟いた。
千鶴は驚き、宵を振り向いた。
「へー、見たんだ。……珍しいな。ローズの誰にも話したことはなかったはずだけど、おまえよっぽど信用されてるんだな」
「……あんただって見たんだろ?」
「そりゃ、セックスする時脱ぐからな」
殺風景な部屋で、自ら亮の背に舌を這わせた。
「知ってる? 刺青って、皮膚にインクを入れるから、もっとぼこぼこざらざらしてんのかなって思ってたけど、全然普通の肌と変わらないんだよ。すべすべしていて、なんも変わらないって思った。この人もあたし達と同じ、何も変わらないって」
軽率に飛び込んだ世界だった。心の奥で静止する声は確かにあったけど、千鶴はそれを無視し、自ら亮の背に舌を這わせたのだ。
一度目は亮の声に耳を貸し、ローズで働き始めた時。二度目は自らの静止の声に耳を貸さず、彼の背に舌を這わせた時。そして三度目はおそらく、店から連れ出そうと乗り込んできた桃華の手を振り払った時だ。自分は何度道を踏み外してきたのだろう。
「う……」
千鶴は痛みに小さく呻いた。深くゆっくり息を吸い、吐き出す。
「痛むか? ……もういーよ、喋んなくて。おとなしく」
「聞けよ」
千鶴は宵の言葉を遮り、酷く掠れた声でそれだけ呟く。
「ここまで話させたんなら、全部ぶちまけさせろ」
姉によく似たその顔を、つい睨みつけてしまう。
宵は観念したように、小さく笑った。
「……はいはい。あんたが平気なら、いいよ。好きにしろ」
千鶴は何度か深呼吸を繰り返した。目を閉じ、再び意識をあの頃へと戻した。