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Memory of Night 2
第40章 罪
ーー変わり果てた妹の姿を、桃華はどんな気持ちで見ていたのか。
「なんで……」
悲愴な表情と、声。
千鶴の脳裏に、白い病室で赤子を抱いて微笑む聖母のような桃華の姿が蘇った。綺麗な場所で生きてきた彼女には、この場所も千鶴の姿も置かれている状況も、全部が汚らわしく思えたことだろう。
だからなおのこと、ほんの一瞬垣間見えた桃華のその刹那の表情がショックだった。
あの病室で感じた時よりも、もっともっと彼女が遠い存在に思えた。
ーーいつから、どこで、何を、自分は間違えてしまったのか。
「こんなとこで何してんだ……! 戻ってこい!」
桃華はその白い手を、千鶴へと差し出した。
だが千鶴は彼女の手を掴まなかった。戻ってこいと叫ぶ桃華に、怒りにも似た気持ちが込み上げた。
ーー戻る場所なんてない。桃華には、帰る場所も帰りを待ってる人もいる。でも自分には、荒れ果てた部屋しかなかった。今『春加』を手放したら、醜い自分しか残らない。
やがて桃華は千鶴の手首を掴み、強引にテーブルの下から引きずり出した。
「やめて、離して……っ」
「こんな店、すぐ出るぞ!」
桃華の力は強かった。ポールダンスで腕力なら鍛えているはずなのに、まったく歯が立たなかった。