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Memory of Night 2
第40章 罪
「……強引に引っ張ってきて悪かったよ。早く着替えてきな、一緒に帰ろう」
「ーーそうやって、自分の価値観を押し付けるんだね。お姉ちゃんも、母さんや父さんと同じじゃん」
姉の顔色が変わった。
美しい灰色の瞳が、ぱっと見開かれた。
千鶴はゆっくりと、真っ赤に塗った唇に笑みを乗せた。
「ーーずっと、羨ましかったよ。その綺麗な顔。あたしみたいに、派手なメイクや衣装で飾らなくたって、いつもお姉ちゃんのそばには男が寄ってきてたもんね。孝弘(たかひろ)だって、一目見ただけでお姉ちゃんに夢中になった。ーーいい気分だったでしょう? みんなにちやほやされて、幸せだったでしょ?」
一度口に出したら、もう止められなかった。磨ぎたての刃物のように、姉の心を抉るであろう言葉たち。
幸せなはずがなかった。姉はその美しい容姿のせいで、ずっと孤独だった。男嫌いになった原因も、元を辿ればその容姿だった。
両親のこともそうだ。秋広に出会い、桃華は幸せを手に入れた。だけど両親とは未だに和解できないままだ。
自分を、理解しようともしてくれなかった両親に、桃華は全てを諦めてしまっていた。
そんな両親と同じだと言われることが桃華をどれほど傷つけるか、千鶴はわかっていた。わかっていて、それを選んだ。