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Memory of Night 2
第42章 入院生活

「……なんだ、そのためにあたしを探しに来たのか」
今かよ、と思う。こんな体調が最悪な時に、わざわざ。
どうせしばらくは病院から出られない。当然仕事への復帰もできないのだから、もう少しあとにしてくれたっていいだろう。
「ん? 何が?」
「ーーあたしはもう、クビってことだろう?」
自分の言葉に胸を抉られた。千鶴は目を伏せた。目の前がくらくらと、揺れているような気がする。
「前に言ったろう? クビにはしない」
ーー辞めたければ、勝手に辞めればいい。そんなふうに言われたのはいつだったか。確か店を一週間無断欠勤した自分を、亮がアパートまで迎えにきてくれた時だった。
つまり、クビにされるのを待ってないで、自分から店を辞めろ、ということか。
千鶴は顔をあげた。
口を開こうとして、できずにまた閉ざす。
亮の姿が視界に入った瞬間、意図せずぼろぼろと涙がこぼれ出した。堪えようとする間もなかった。
自分の居場所はもう店だけだったのに、失ってしまうということ。そして何より、亮のそばに居られなくなることが、悲しかった。
ーー自分はもうこの人にとって、本当に必要のない人間になってしまった。
亮は何歩か近付いてきた。死刑を待つ罪人の気分で、千鶴は亮の足音を聞いた。
やがてその音が止まったあと、耳に響いたのは予想とは別の言葉だった。

