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Memory of Night 2
第45章 卒業

「ーー大丈夫だよ」
ふいに千鶴の声が耳元で響いた。
それは心の内を読まれているようなタイミングと言葉で、宵はついはっと顔をあげてしまう。
「おまえがガッカリするような答えは、きっと来ない」
「え?」
「入院中も言ったろ? 思い当たることがなくはないって。多分あれかな、くらいの推測でしかないけど、それが当たってれば、離婚を決意したのは二人にとって前向きな選択だったんだと思うよ」
「……前向き? 別れることが?」
どういう意味だろうか、と思う。共に生きていくと決めた相手と、自ら離れる選択をしたのだ。子供である自分を置いて。一般的な理由を挙げるなら、愛情が冷めてしまったか移ってしまったかのどちらかだろう。それを前向きと言われても、納得がいかない。
ふいに、千鶴は通話を切り上げた。
「そろそろ戻んないと。おまえもうバイトは入らないだろ? リハビリも終わって、受験やら卒業式やらあんたの母親との話やらが全部終わったらでいいから、一度バーに顔出せよ。お客さんも寂しがってるよ、土方さんを筆頭に」
「……ああ、あのおっさん。そういや礼もまともに言ってねーや」
「あと墓参りも行くんだろ? また連絡する」
「あー、うん」
千鶴との通話を切り、宵は小さくため息をついた。
キリをつけなければいけないことは、まだまだ残っているのだ。一つ一つ終わらせていかなければならない。
宵は広げたままの赤本とノートを見つめ、まずは受験、と小さく呟いた。

