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Memory of Night 2
第45章 卒業

(懐かしい)
ふいに宵はそんなふうに思った。出会ったばかりの頃は、よくそんな表情を目にしていたのだ。
深々と一礼し、晃は答辞が書かれた用紙を開いた。
低い、テノールの声が体育館内に響き渡る。
「校庭の梅の花がほころび始め、春の訪れを感じる今日(こんにち)、こうして皆様に祝福されこの日を迎えられたことを、大変嬉しく思います。本日はお忙しい中ご臨席くださり、誠にありがとうございます」
再び深々とお辞儀をし、卒業生代表としての挨拶は続く。
普段なかなか使わないような言葉が並ぶが、晃はつっかえることも噛むこともなく、聴きやすいボリュームと速度で流麗に読み上げていく。
卒業生も在校生も、みんな晃に釘付けだった。
宵も他の生徒たちと同じように、晃の声に聴き入っていた。
だが、そこで挨拶は途切れた。唐突に晃が答辞の書かれた用紙を畳み、壇上に置いたのだ。
まだ終わってはいないはずだ。三年間の振り返りの途中、急にどうしたというのか。
生徒たちも、わずかだがざわついた。
晃は紙は開かずに、再び顔をあげた。
「ーーここからは少し、自分の言葉で話させてください。カンペも無いので、多少お聴き苦しいかもしれませんが」
(え……? カンペって)

