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Memory of Night 2
第45章 卒業

ーー数日後。
三年三組担任だった倉木は、空(から)になった教室のロッカーを拭き掃除していた。夕方五時を過ぎ、西日が教室を照らし始める。
しゃがんだり中腰での作業に疲れ、腰を伸ばそうと立ち上がった倉木の目に、ロッカーと同じく空になった勉強机が映った。
半月前までは毎日生徒達と顔を合わせていたのに、その日々が嘘のように、がらんとしている。
(こんなに寂しくなるものなのね……)
倉木は教室全体を眺めながら、小さく笑みを漏らした。
教員になり、初めてのクラス担任だった。進路はまだ決まっていない生徒もいるが、無事卒業しそれぞれの道に進んでいくことは何よりめでたいことのはずなのに、どうしてももの悲しい気持ちになってしまう。
まだ一、二年生は普通に授業を受けているので学校はそれなりに賑やかだが、三年生のクラスがあった三階には生徒はおらず、まるで別の空間にいるようななんともいえない感覚になった。
「……倉木先生。ここに居たのですね」
ふいに教室のドアから声をかけられ、倉木は感傷的になりかけていた気持ちを慌てて振り払った。
「……校長」
白髪をオールバックで後ろに流し、茶色い黒渕眼鏡をかけた背の低い男が、この学校の校長だった。

