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Memory of Night 2
第50章 episode of 0

「嫌かね?」
「……別に。手加減しないですよ」

 桃華も右手を構えた。

「神谷くん、掛け声を頼むよ」
「はい」

 二人が手を絡めたのを見届け、二人の手の上に自分の手のひらを乗せた。

「よーい、どん!」

 こんな、かけっこみたいな掛け声でよいのだろうかと悩みつつ、勝負が始まった。
 最初優勢だったのは桃華だった。藤巻の腕が、徐々に倒されていく。
 だが途中から全く動かなくなった。やがて桃華の白い手が微かに震え始める。

「……っ」

 赤い唇から、微かに呻き声のようなものが漏れる。
 やがて少しずつ、藤巻が巻き返してくる。一分半ほどの戦いの末、先にテーブルに手の甲を触れさせたのは桃華だった。

(社長の……圧勝?)

 この結果は秋広には予想外だった。桃華もまさか自分が負けるとは思っていなかったようで、驚いたように灰色の瞳を見開いている。

「勝負ありだね」

 藤巻は笑った。

「……あまり、男を挑発するような態度は控えた方がいい。いらぬトラブルを呼ぶからね」
「…………」

 桃華は無言で藤巻を睨み付ける。

「では、来週からどうぞよろしく」

 そうして藤巻は手のひらを差し出した。これは握手のつもりのようだが、桃華はそれには応えず、無言で事務室を出ていった。
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