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Memory of Night 2
第50章 episode of 0
「あれ、怒っちゃったかな。気が強そうな子だったからねぇ、つい。でもあの調子なら大丈夫そうだね、きっと続くと思う、ここでの仕事」
「はあ、そうですかね……」
そこで秋広が視線を落とすと、先ほど渡した来週の現場への地図がファイルに入れて置いてあるのが見えた。
忘れていってしまったらしい。これでは初日から、現場にたどり着けなくなってしまう。
秋広は慌ててそれを持った。桃華を追いかけようとして、ふいにあることに気がつき救急箱を取りに事務室の隅の引き出しへと走り、そのままの勢いでドアから飛び出した。
「も、桃華さん……! あの、これ……」
彼女はエレベーターを待っていた。このビルは五階まであるが、エレベーターは一つだけ。時間帯によってはかなり待たされてしまう。
中も狭く、不評を聞くことも多いエレベーターだが、今回はそれのおかげで桃華に追いついた。
彼女は秋広を振り向いた。
「……あの、これ忘れてます! 来週の、地図……っ」
「ああ」
「あと、手首大丈夫ですか? 良かったらこれ、湿布……」
瞬間、桃華の顔が険しくなる。
「あのクソ親父、何歳?」
「く、クソ……!?」
美しい外見に全く似つかわしくない単語が突然桃華の口から飛び出し、秋広は度肝を抜かれた。
しかもこれから働く会社の社長である。トップである。それなのに、暴言。
唖然としてしまった秋広に、桃華の言葉は続く。
「死に損ないのジジイの癖に舐めやがって」
「…………」
さらに続く暴言に、秋広は開いた口が塞がらない。
やがてちーんと間の抜けたエレベーターの到着音が響いた。
「これだけでいい」
桃華は秋広の手から地図だけをひったくるように受け取り、エレベーターに乗り込んだ。扉が閉まるのを、秋広はそこに立ち尽くしたまま見送ることしかできなかった。

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