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Memory of Night 2
第50章 episode of 0
あれ、と思う。自分の声のトーンが低い。秋広は無意識にコーヒーゼリーが入っていたコップを見つめた。
桃華が作ってくれたもの。手作りのゼリー。秋広はそれがとても嬉しかった。
こうして部屋に入れてくれて、自分が作った料理を食べてくれる。二人きりで。
ーーこの関係は、『特別』なものではないのだろうか。
「『女の幸せは嫁に行くこと』。そういう考えの人だったからな、両親とも。それが何より窮屈だった。……工場継ぐって言っても女のあたしには無理だって言われて、やってられっか、と思ってそのまま家を飛び出して、今。もうずっと連絡も取ってない」
「ええ!? じゃあ、ご家族は桃華さんの今の住所知らないんですか?」
「知らないんじゃない? ……妹にだけは伝えたかったけど、家に電話かけるのは嫌だし。……本当は呼びたいんだけどね。こんなボロいアパートじゃどのみち呼べねーか」
最後のセリフは独り言のようだった。
秋広は部屋を見まわす。確かに、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
「…………」
上手いフォローも思いつかず、秋広は返す言葉を探す。見つからず、沈黙が流れた。
「あたしはこんなだったけど、妹はそんなことない。ちゃんと年頃の男と恋愛して、両親とも学校の友人達とも上手くやれてたはずだ。あたしよりずっと人間らしく生きてる。……可愛い妹だよ」
頬杖を付き、写真の中の少女を眺めながら桃華は笑みを浮かべる。柔らかく細められた瞳には、慈愛と共にどこか憂いのようなものが感じられた。
そんな表情を美しいと感じてしまう自分は、どこかおかしいだろうか。
「妹さんの名前、なんて言うんですか?」
桃華は写真たてを眺めたまま、言った。
「ーー千鶴(ちづる)」

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