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蒼い春
第2章 恩師 月島弓子
「じゃあ、いってきます」
「あなた、いってらっしゃい」
出勤する幸久は玄関で振り返ると
見送る弓子にやさしくキスをした。
出かける前と帰宅時には
結婚してから欠かした事のない儀式だった。
そんな二人の儀式を邪魔するように
「幸久先生!お弁当、忘れてますよ~!」と
奈央が弁当の入った包みを手に
キッチンから駆け寄った。
「やあ、奈央ちゃん。いつもすまないねえ~」
幸久は弁当を受け取り、
とびっきりの笑顔を返した。
「ほんと、いつも悪いわね」
弓子も自分の弁当を受け取った。
「ううん。居候させていただいているんだもん。
せめてこれぐらいは…」
奈央は、はにかんだ笑顔で2人を見つめた。
奈央が弓子に保護された5年前のあの日。
弓子を交えて家族会議を行った。
奈央が義父に凌辱されたとわかり、
母は義父と別れると言った。
だが奈央は母とは暮らしたくなかった。
あのような男を選んだ母も
許せない気持ちでいっぱいだったからだ。