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保険外交員の営業痴態
第10章 帰省
新幹線にするか飛行機にするか
いろいろ迷ったけれど
時間もたっぷりとあることだし
ここは安価な夜行バスを利用することにした。
『女性のひとり旅も安心』
そんなキャッチフレーズに惹かれて
真由美はデラックスバスをチョイスした。
デラックスといっても
新幹線を利用することを思えば
はるかに安い。
ターミナルビルでバスを待っていると
「あなたも帰郷ですか?」と
一人の男が声をかけてきた。
無視するのも悪い気がして
「ええ」とだけ短く答えた。
男は真由美が答えてくれたのに気をよくして
「僕は旅行なんです
旅行といっても
特に行く宛もない気ままなひとり旅ですけど」
などと、真由美が鬱陶しい表情をしているのに
気づいているのか気づいていないのか
一人で饒舌に話しかけてくる。
旅は道連れなんて言葉があるけれど
今は静かに過ごしたいので
真由美はひたすら無視を決め込んだ。
やがてバスが到着して
二人はバスに乗り込んだ。
人気の観光地へ向かうバスではないので
車内は閑散としていた。
座席はガラガラに空いているのに
予約の順番からなのか
よりによっておしゃべりな男とは同じ列になった。
一人一席の余裕のあるシートで
カーテンを閉めれば即席の個室に早変わりできた。
真由美は着席するやいなやカーテンを閉めて
おしゃべり男との視界を遮った。