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保険外交員の営業痴態
第14章 人事部 木下幸平
家まで送ると進一は言ったが
真由美は横浜駅でいいと頑なに拒んだ。
これ以上一緒にいると
冗談ではなく進一を妊婦の彼女から
奪いたくなるからだ。
車から降りるとき
運転席から「また連絡するから!」と
進一は再会を願ったが
それに答えず振り返りもせずに
腕だけを上げてバイバイと手を振った。
街中が「新年おめでとう」と
華やいでいたが
真由美の心は荒んで『何がめでたいと言うのよ』と
一人で毒づいた。
新年も三が日を過ぎ、松の内が明けるのを待って
真由美は保険会社の事務所に顔を出した。
明子さんへ新年の挨拶をするのと
帰郷した時のお土産を手渡すつもりだった。
明子さんはデスクに座って
書類に目を落としていた。
三件の契約書を差し出して
意気揚々と新年の挨拶をと
「明けましておめでとうござ…」いますと言う前に
真由美ちゃん!本社から呼び出しがあったわよと
一大事のように眉間にシワを寄せて言い放った。
「本社…からですか?…」
呼び出されるというのは
あまりよい話ではないことと
いくら鈍感な真由美でもわかった。
人事部の木下部長が来て欲しいって言ってるわ。
アポを取っておいてあげるから
真由美ちゃんは今すぐ行きなさい。
ほら、早く早くと明子さんは
追い出すようにシッシっと手を振った。