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保険外交員の営業痴態
第16章 愛を抱きしめて

それからも真由美の営業活動は順調だった。

この勢いだと
来年、正社員になったとたん
営業所のエースになるのも時間の問題だった。


季節はようやく春めいて来た。

例年に比べて暖かくなるのが遅く
桜の開花予想は平年よりも
10日ほど遅くなるだろうと
テレビのニュースで言っていた。

そんなおり、
幼馴染みの進一にいちゃんから
久しぶりにメールが来た。

『時間があれば
一度ゆっくり会えないか?』

にいちゃんにしては
やけにご丁寧な文面だなと思った。

まあ、彼も一人前の社会人だし
いつまでもタメ口というわけにもいかないだろうと
短い文面にも彼の誠実さが伺えた。


待ち合わせの駅に行くと
間が悪いことに冬の冷たい雨が降りだした。

傘を持ってこなかった真由美は
駅舎を出るに出れない。

そんな雨宿りをしていた真由美の方へ、
まさに改札から出てきたばかりの進一にいちゃんが
真由美を見つけてゆっくりと歩み寄った。

「待たせたかい?」

振り向くと、爽やかな笑顔の進一にいちゃんがいた

「お久しぶりです、おにいちゃん」

進一のスーツ姿を見たのは初めてかもしれない。

保険勧誘の営業で
たくさんのスーツ姿の男性を見るけれど、
こんなにかっこいいと思った人はいなかった。

「どうしたの?急に会いたいだなんて」

「幼馴染みなんだから、
たまにはこうやって会うのもいいだろ?」

そう言うと微かに笑って、
「横浜からこっちに引っ越したんだ」と
教えてくれた。

「えっ?」

「二つ先の駅で近くのマンションを借りてる」

「そうなんだ…」

彼女の健康はどう?
胎児は順調に育ってる?

そのように聞いてみたいのに
なぜか聞くのが怖かった。

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