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保険外交員の営業痴態
第1章 セールスレディとしての自覚
それから半年…
真由美は保険会社から呼び出しをくらった。
呼ばれている理由はわかっている。
今月の契約数の件に違いなかった。
真由美は神妙な面持ちで
横田明子のデスクに近づいた。
「中西さん、わかっているわね」
メタルフレームの奥の涼しい瞳が
真由美を見据えた。
「はい…契約件数のことですよね?」
今さら言われなくてもわかっていた。
このアルバイトを始めて、
最初のうちは親友やコンビニのバイト仲間相手に
地道に件数を増やしたが
ひととおり知人に売ってからは
パッタリと契約が止まってしまった。
親戚には声をかけることができなかった。
もし万が一、親の耳に届いたら
学業に精をださずに何をしているのだと
怒り心頭で大学などやめて
帰郷して来いと言われかねないと思ったからだ。
「中西さん…このままじゃ
バイトを打ち切られちゃうわよ」
真由美の成績表を眺めながら
わざとらしくため息をついた。
「すいません、がんばっているんですけど」
みんなの前で叱責されるなんて、
情けなくて涙が出そうになった。
「あなたが憎くて言ってるんじゃないのよ。
あなたは若いし、商品の説明も上手だし、
ちょっとやり方を変えれば
契約が伸びると私はみているの」
40歳の横田明子は
酸いも甘いも知り尽くしているだけに、
その言葉は重みがあった。
「これ…」
デスクの上に
USBのメモリースティックを滑らせた。
「なんですか?」
それを手にして眺めてみる。
なんのことはない、
見た目にはただのメモリースティックだった。