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保険外交員の営業痴態
第5章 元カレにアタック
運転席の窓を開けて
懐かしい顔が真由美を呼び止めた。
「カズ…くん…?」
元カレの佐藤和真が雨に濡れるのも厭わずに
右手をびしょびしょに濡らしながら
真由美に向かって手を振っていた。
いや…
こっちへ来いと手招きしているのだった。
別れたとはいえ
こうして偶然に出会うと
交わした情愛が甦る。
手招きされるまま
真由美は小走りで和真の軽自動車に駆け寄った。
「ずぶ濡れじゃん!乗れよ!」
和真は風雨に負けないように
大きな声でそう言った。
渡りに船とは正にこの事だと思った。
別れ話を切り出された時のわだかまりもなく
フラットな気持ちで
真由美は和真の助手席に座ろうとした。
だが、ずぶ濡れなのに気づいて
一瞬、躊躇した。
「何してんだよ!乗れよ!」
「だって、シートが濡れちゃうじゃん」
「構わねえよ、そのうち乾くんだからよ」
ああ、そうだ…
カズくんは豪快な男だったわと
真由美は思い出して
お言葉に甘えて軽自動車に乗り込んだ。
こんなタオルで良ければ使えよ
和真が後部座席のバッグの中から
汗で湿ったタオルを真由美にわたした。
「ありがとう…」
タオルを顔に押し当てると
懐かしいカズくんの体臭がした。