この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
黒い瞳
第3章 淳子~6歳~
すっかり陽が落ち、あたりが暗くなった8時ごろ、そのおじさんはやってきた。
「こんばんは」
ダミ声の男の声・・・・
淳子はその声が気分的に好きになれないと感じた。
「いらっしゃい、お仕事ご苦労様でした」
いつもらしからぬ母の可愛らしい声・・・
「お言葉に甘えて、お邪魔させていただきました」
「散らかっていて、恥ずかしいんですけど、どうぞおあがりになって」
母の後からおじさんは部屋に入ってきた。
「淳子、このおじさんが前から話していた八神さんよ。ちゃんとご挨拶なさい」
淳子が挨拶をする前に八神が
「やあ、お嬢ちゃんが淳子ちゃんだね。
こんばんは、よろしくね。
これ、淳子ちゃんにプレゼントだよ」
そう言って、人形を淳子の手に渡してくれた。
「ほら、ちゃんとご挨拶と、お人形のお礼を言いなさい」
そう母に促され、
ようやく「こんばんは、ありがとう」と
淳子はようやく言葉を発した。
「女手ひとつで育てているもんだから、
甘やかせてしまって・・・はずかしいわ」
「いやいや、なかなかお利口さんじゃないか」
そう言いながら二人は、
しばし、見つめ合っていた。
3人で食卓を囲み、
母は八神に寄り添うように座った。
たくさんの料理を用意したが、
八神は少し箸をつけてはビールばかり飲んでいた。
八神が、空いている左手を食卓の下でモゾモゾと動かすたびに
母が、いやん、とか、だめよ後で、などと
鼻にかかった甘い声をだしていた。